Published: January 16, 2018
メルカリ仮想通貨決済導入を決めました[(CNET Japan)](https://japan.cnet.com/article/35113099/)。
メルカリは1月11日、同社が2017年11月に設立した「メルペイ」にて、2018年内にメルカリでの仮想通貨決済に対応すべく、仮想通貨領域に参入することを公表した。今後、金融庁に仮想通貨交換業者として登録申請する。
何が起きているかを知るには、まずメルカリの金融業的側面をまずおさらいしましょう。
現在のルールでは、出品者は販売で得た売上金は1年間は引き出さずにメルカリに預けておくことができました(最近90日間に短縮したようです)。ヘビーな利用者は売って得た金を使いまた買うなどしてお金をメルカリ内で還流させていました。
これはメルカリが静かにデジタルウォレットとしての役割を果たしていたことを意味します。PayPalのような機能です。そして、このプラットフォーム上に置かれた現金がメルカリの投資余力として機能していたことはよく語られています。
メルカリの「ウォレット」はメルカリのなかにその機能が限定されています。ウォレットの内の法定通貨(フィアットカレンシー)のデータは、メルカリ商品の売買に用いられるのみです。メルカリは「中古品売買の仲介業者」ですので、中古品のGMV(流通総額)が増えるように、アプリケーションを設計するのは当たり前です。
ここで視点をメルカリ内のウォレットに移しましょう。ウォレットとしては気分が悪いのです。自分の中にたまったお金を他のさまざまな機会に利用できるようにしたい。
面白い例があります。eBayはかつてPaypalを買収しました。当時のPaypalはeBayのパワーセラーに狙いを絞ったマーケティングを行い顧客ベースを拡大していました。eBayはPaypalの親和性を認めるに至りました。
メルカリは現在、「メルペイ」という子会社を持っており、これが「メルカリのPayPal」の地位を睨んでいるでしょう。メルペイはメルカリのトランザクション(取引)をベースにしながら、あらゆる場所で行われるトランザクションへと足を広げようとしているでしょう。微信包銭(WeChatPay)や支付寶(アリペイ)のように。他にも布石が置いてあって、ネットショップ開設と決済サービスを提供する「BASE」とも資本業務提携を結んでいます。
つまりアリペイをやりたい メルカリの金融業とは「アリペイを日本でやる」に尽きるようです。メルペイの代表取締役に就任した青柳直樹へのITproのインタビューからメルペイの方針がよくわかります。
この分野では早い時期から記事を積み重ねており、最も早かったアナリストと言っていいでしょう。金融業界への反響が大きかったので、記事を付記しておきます。
デジタルウォレットは日本国内でやるのが、大変かもしれません。(1)レガシー金融の閉鎖性、(2)レガシー保護規制、(3)現金主義、につきます。
例えば、お金をデジタルウォレットに移転させる際に金融機関が課すフィーが薄くないといけないのですが、日本ではそうではありません。中国の決済手数料はかなり安く、クレカで0.3%、デビットカードで0.1%。レガシー金融とデジタルウォレット間のお金の交通がスムーズです。日本では2〜8%のレンジで加盟店に料率が明確に示されないまま、タックスをとります。これは戦国時代の関門だらけでビジネスがはかどらない感じに似ています。
許認可の獲得とその運用、規制への対処など少なくない参入障壁が、規制当局と密接な既存プレイヤーによって築かれています。メルカリは最近、出品者売上金の預かり期間を短縮しましたが、ある程度の規制への応対コストが生じています。
日本人は現金が好きです。決済の8割程度が依然として現金で行われています。各地にある大手銀の支店・ATMで長年に渡りナーチャリングした成果だと考えられます。特に日本の個人資産の大半を握る高齢者層の現金主義は常軌を逸しています。
メルカリがこの3点をうまくやるか、それとも昨今の金融業界改革の流れが外部環境をガラッと変えるか、が注目に値します。メルカリの事業自体もいろいろ責め立てられたこともありましたが、がっちり跳ね返している感じだと戦い慣れているのかもしれません。
ただし、もうひとつ道があります。新しく見えた大陸である仮想通貨(暗号通貨と呼びましょう)です。暗号通貨の貨幣としての利用はマニアック層にとどまってきました。マジョリティは投機利用のみです。そこに多量のトランザクションを持つプレイヤーが興味を示してきたのです。Facebookのマーク・ザッカーバーグの年初ポストもまた興味深い。メルカリが単純に暗号通貨を採用する、という話にはなりません。このビジネス面の状況に関しては別記事で触れます。
執筆後記:そういえばAxionプロジェクトは最初「芝麻信用の仕組みをコンテンツディストリビューションプラットフォームに適用できるよね」から始まっています。
Image by Dick Thomas Johnson(flickr / CC BY 2.0)