Published: November 06, 2017
中国がアメリカに並ぶAIの2強に躍り出ようとしています。BATなどの巨大企業が推進力の核になりますが、同時に有望なAIスタートアップとそれを育てるエコシステムが生まれつつあります。AI開発と社会への適用は産業のオートメーション化など中国社会に大きなインパクトを与えようとしています。13億人の国はAIと経済社会をめぐる巨大な実験場になる可能性を秘めています。
Alibabaが最先端領域に対しムーンショット投資を開始しました。目を凝らしてみると、AI、IoTなどのバズワードで表現される各領域は不可分であり、一か所で起きた変化が、他の場所での変化を誘発するような状況です。
McKinsey Global Instituteからの引用で、グローバルにおけるAI領域に対するVCの投資額は5億8900万ドル(2012年)から50億ドル(2016年)まで拡大しました。MGIはAIが応用される市場の規模は2025年に1270億ドルに達すると予測しています。AI関連M&A件数(2011年1月〜2017年2月)を比較すると、米国が55件に対し、中国は10件と差があります。加えて、中国政府は米国政府に比べてデータの開示で大きく劣っており、両者にはまだ差があるように考えられます。
Fig 01 02 Source: McKinsey Global Institute
しかし、中国は急激に伸びているのです。中国のAIケイパビリティの急速な拡大は今年に入り著しいのです。The Economistから引用します。
ホワイトハウスは2016年10月、中国が深層学習に関する論文数において、アメリカを追い抜いたというレポートを発表。PwCは、AI関連の経済成長が2030年までにグローバルGDPを16兆ドル増加させると予測している。半分近くが中国の増加分に当たる可能性があると予測する。中国の研究者によるAI関連特許提出件数は近年では200%近く増加している。ただしアメリカはまだ絶対数で大きく先行しているわけだが。
中国最大のソーシャルメディアネットワークの運営者であるTencentは、機械学習、コンピュータビジョン、音声認識、自然言語処理に携わる50人のAI科学者を抱えています。TencentはBeijing Automotive Group (BAIC)を結成して自動走行車においてBaiduと競争を開始しました。
テンセントはBATのなかで最もAIへの取り組みが遅れていると考えられていました。AI研究所を開設したのも今年です。以下のTencent取締役のベニー・ホー氏と2016年に行ったインタビューでは、ホー氏にAIに関する質問がすべて却下されてしまいました。
しかし、TencentはAlibabaやBaiduよりも多くのデータを持っています。Tencentは約10億アカウントを持ち、支払いやニュースから地図、法務支援まで、何千ものサービスのプラットフォームとなっています。その他、リーグオブリーグやクラッシュ・オブ・クランなどの大ヒットゲームの運営元でもあるのです。
TencentにはAI開発における強力な利点があります。
Alibabaもコマース・決済を中心にした莫大な行動・購買データを抱えています。Amazonが倉庫内で行うロボティクスも即座に真似をしてしまいました。
Baidu、Alibaba、Tencentが率いる中国のハイテク企業群はAI専門家を雇い、新しい研究所を作り出しています。Amazon、Google、Microsoftが運営するものに匹敵するデータセンターに投資しています。中国の起業家や投資家がさまざまな業界でAIを活用する大きな機会を狙っているため、資金は無数の新興企業にも流入しています。TencentとAlibaba、ソフトバンクが出資する滴滴出行は現行のライドシェアを発展させた自動走行車サービス提供を目指しています。
大型企業の躍進だけでなく、北京の熱狂的なスタートアップシーンは既に強力なAI企業を生み出しています。2014年に設立されたSenseTime。すでに世界で最も貴重なAIの新興企業のひとつになっています。 SenseTimeは香港中文大学にあるXiaoou Tang教授のマルチメディア研究室を母体として2014年に設立。深層学習、コンピュータビジョンのトップレベルの研究者,Google、Microsoft、Baiduなどの産業界で活躍した優秀な人材を集めています。
SenseTimeは国有キャリアChina Mobileやオンライン小売大手JD.comなどの大手中国企業にコンピュータビジョン技術を提供しています。SnapchatとInstagramのコンピュータビジョンを活用したARフィルターなどを素早く模倣しています。顔認識や自動走行車に活用される歩行者・自動車などの即時物体認識を開発しています。
同社は現在、自動車システムなどの市場を研究しています。SenseTimeは今年7月に4億1000万ドルの資金調達を行い、15億ドルの評価額が付きました。日本のAIビジネスで唯一の希望(?)である製造業分野への応用についても、世界最大の製造業国である中国の引き離しが濃厚でしょう。
ニュースアグリゲーションのToutiaoは機械学習をニュースのアグリゲートやフェイクニュースの検出に使っており、時価総額10億ドル超のユニコーンになりました。他にも、iFlytekはマンダリンを複数の外国語に自動翻訳するボイスアシスタントを提供し、Megvii Technologyは人間の顔を即時に認識するコンピュータビジョンを提供しています。
他方で13億人社会に光と影の両面を落とすことになる可能性があります。
AI技術は生産性を飛躍的に向上させる可能性があるため、中国の経済成長とその労働に大きなインパクトを与えるでしょう。中国の労働、一次産業だけでなく二次・三次産業の半分は自動化が可能と考えられ、中国は世界最大の自動化の舞台になる可能性があります。労働市場への影響は総じて漸進的であると考えられるが、それは突発的なものになる可能性も否定できません。特定の作業活動のレベルでその変化は劇的になり、一部の仕事はかなり早いタイミングで時代遅れになるはずです。
労働者のAI / デジタル技能に対するプレミアムを高めなければ、中堅・低技能労働者への需要が減るなかで、労働力の高付加価値産業への移転を成功させることは難しいでしょう。AIの活用は社会全体の所得の不平等を悪化させる側面をもっています。しかし、これらは分配の問題に過ぎず、むしろ生産性、生産には著しい改善が見られるはずなので、ユニバーサルベーシック・インカムなどの巨大な実験場になるかもしれません。
今後中国では、米国を先例として民間主導型の開発が進められていくはずです。BATはすでに世界有数の巨大企業となりグローバル企業化が進んでいます。ここにAI領域の力が備わるようになると、今後はBATと政府の関係などに大きな変化が現れると考えられます。Googleがワシントンでのロビーイングに最も資金を拠出している会社になったり、Amazonが米政界内幕話新聞のWashington Postのオーナーになったりということが中国でも起きてくる可能性は否定できません。
中国のGDP成長は停滞を開始している模様であり、公式発表のGDP成長率を鵜呑みに出来ない状況を考えると、AIのようなディスラプティブな最先端領域への投資は、共産党としても避けがたいと考えられます。世界第2位のエコノミーではあるものの、すべての人が豊かになったとは言い難い状況です。マクロの数字の一部が光り輝いても、社会の一部には不満が渦巻いており、人々は政治的、経済的自由を求めているはずです。それが、中国政府が中国を2030年にAIイノベーションの中心にするという目標の背景になっています。
センスタイムジャパン China may match or beat America in AI https://www.mckinsey.com/global-themes/china/artificial-intelligence-implications-for-china