カーボンファイバーがクルマをプログラム可能にする モビリティ競争の自動車産業

Published: November 01, 2017

近年注目を浴びる炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics:CFRP)は金属類より軽く、強く、疲労も少ないといわれます。炭素繊維は航空機、風力発電ブレードなどで採用されていますが、巨大市場の自動車業界も触手を伸ばしています。

現状、自動車メーカーはホイールなどの部分でカーボンを採用しています。部品点数10万点といわれる自動車ですが、CFRPを使った製品をオートメーションで大量生産するするメソッドがその10万点に行き渡っていません。その活用が高価格帯の自動車に偏るのは、生産ロット数が豊かになっていないからでしょう。また、CFRPのリサイクル手段もまだ確立していません(金属はリサイクルが可能ですが、その過程で溶かす必要があるため効率的なリサイクルと言えるかは別です)。とはいえ、今後はさまざまな部品にCFRPを活用した部品生産の自動化の波が訪れることになるはずです。

炭素繊維の生産に関しては、東レが世界シェアの約4割を握り、2番手の帝人、三菱レイヨンを足した3社で世界生産の6割超を占めています。中国などのアジア企業も参入済みですが、日本勢とは品質で大きな差があるそうです。

ただし、自動車業界に炭素繊維が普及する決定打があり、それが炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP)という成形コストがやすい炭素繊維が出てきたことです。これによって広範な範囲での炭素繊維の活用が進むと考えられ、リサイクルの問題も解決できました。

2020年から2025年にかけて自動車用を中心にCFRTPの採用が進み、2030年にはCFRTPが炭素繊維複合材料市場の金額ベースで約10%、数量ベースで30%を占めるようになる見込みだ(中略)。

CFRPでは困難だった高速プレス加工や、スチール溶接並みの強度を持つ接合が可能になる。また、CFRTPに使うマトリクス樹脂がリサイクル可能であるため、生産工程で発生する廃棄材料や不良品、廃車後の部品を再利用できる。

炭素繊維強化プラスチックの世界市場、自動車用で熱可塑性が急成長へ – MONOist(モノイスト)

電気自動車の能力を拡大

同時に電気自動車のトレンドにも注意を払わなくてはいけません。内燃機関を搭載する必要がなく、部品点数はガソリン車より少なくなっていきます。ここに炭素繊維という素材革命が影響するはずです。電気自動車は電力のチャージをしなくてはならず、その充電ステーションを整備することや、バッテリーが貯めれるキャパシティを拡大する必要があります。車体自体が軽くなれば消費電力は減るので、充電の頻度を減らすことができます。自宅の屋根で太陽光発電し、自動車がそこから充電することで「化石燃料に頼らないモビリティ」を実現する。このビジョンを加速させる重要な一要素なのです。

さらに自動走行車のトレンドとの関係も考えてみましょう。自動走行車は理論上、都市を走る自動車の数を減らすと考えています。市民へのモビリティの提供をより高度化するからです。となると、そもそも自動車を大量生産する必要がなくなります。

結論:プログラマブルな自動車

だから自動車は部品が減るし、素材もどんどん質が高まります。Autodeskなど人間が高度な設計・デザインを行うことを助けてくれるツールも増えています。誰でも作れるようになっていくでしょう。20世紀型産業の覇者である自動車は、21世紀にはどんどんプログラマブル(プログラム可能)になっていくのではないでしょうか。ソフトウェア企業は、自動車という物体ではなく、モビリティという価値に焦点を当てたプロダクト開発を進めています。多層垂直型の産業構造で知られる自動車業界ですが、インターネットが通信などでおこした水平化の衝撃を受けることになるでしょう。そしてもちろん自動車それ自体も「接続」されることになります。

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