ビットコインを生んだサイファーパンク プライバシーを守る暗号学者

Published: February 08, 2018

ビットコインが成立した背景として「サイファーパンク」の活動があります。……サイファーパンクとは聞き慣れない言葉ですよね。一体何でしょうか?

”サイバーパンク”と”サイファーパンク”

サイファーパンクは人体と機械が融合した社会を描く、SFジャンルの「サイバーパンク」をもじっています。電脳空間(サイバースペース)に意識ごと没入(ジャック・イン)して情報をクラックするコンピューター・カウボーイをめぐる物語のウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』が有名です。それから最近続編が公開された『ブレードランナー』もその金字塔といえる作品でしょう。

その”サイバーパンク”をもじったサイファーパンクは何か? それを考えるときはジョージ・オーウェルの『1984』がいい参考になるかと思います。世界がビッグブラザーと呼ばれるすべてを監視できる権力に支配された世界を描いたディストピア小説です。村上春樹も同様の世界観を引き継ぎ、タイトルをもじった『1Q84』を発表しており日本人にも親しみやすいテーマでしょう。

こういったすべてを監視しようとする為政者から市民のプライバシー、そして自己主権(Self-Sovereignity)を守ろうとする運動こそサイファーパンクの最も重要な点です。そして彼らが使うのがCypto(暗号)なのです。

1970年以前は暗号は主に軍隊や諜報機関によって秘密裏に開発されていました。しかしある出版物が公開されたときに、それは変更されました。米国政府のデータ暗号化規格の公開と公開鍵暗号に関する最初の公開された論文「暗号通貨の新しい方向性」(Whitfield Diffie博士とMartin Hellman博士)。

1980年代、David Chaum博士は、匿名の「デジタルキャッシュ」や匿名評判システムなどの話題を、彼の論文「Identification without Security:Transaction Systems to Make Big Brother Obsolete」(セキュリティなしの認証:ビッグブラザーを無化する取引システム)などを通じて界隈に提供しました。David Chaumは実際「匿名型デジタルキャッシュ」を開発する会社を創業してもいます。

サイファーパンク宣言

その後数年の間にこれらのアイデアは合体してひとつの動きになります。

1992年には、Eric Hughes、Timothy C May、John Gilmoreがサンフランシスコベイエリアで小さなグループを設立しました。このグループは「暗号」と「サイバーパンク」の派生語として「サイファーパンク」と言う名前を自分たちに付けました。サイファーパンクメーリングリストはほぼ同時期に結成され、わずか数カ月後にEric Hughesが「Cypherpunk’s Manifesto」を公開しました。日本語「サイファーパンク宣言」はこちら。

プライバシーは電子時代の開かれた社会にとって必要不可欠なものだ。プライバシーとは秘密主義のことではない。つまりプライベートな事柄というのは全世界には知らせたくない事柄だが、秘密の事柄とは誰にも知られたくない事柄だ。プ ライバシーは選択して自らを世界に示すための力なのだ。

ここまで歴史に関しては、スティーブン・レビーの『暗号化 プライバシーを救った反乱者たち』が詳しいので是非読んでもらいたい。

1990年代

この10年間で、米国政府は強力な商用暗号化の普及を阻止しようとする暗号戦争が起きました。

暗号技術の市場はこの時点まではほぼ完全に軍事的なので、暗号技術は「輸出」を規制する厳しい規制を受けていました。米国軍需品リストに「カテゴリーXIII」の項目として含まれていたのです。サイファーパンクは暗号ソフトのコードを全部バーコードにして米国外に持ち出そうとしました。

監視をめぐる状況は好転を始めます。リバタリアンやプライバシー保護支持者による訴訟や暗号化ソフトウェアの広範な普及が起き、NSAがClipper Chipで人々のことを監視していたことが明らかになりました。

1997年Adam Back博士は「ハッシュキャッシュ」を開発しました。ハッシュキャッシュはスパム対策の仕組みとして設計されたもので、電子メールの送信に時間と計算コストをかけるため、スパムを経済的ではなくしたのです。彼は、アカウントの作成の必要がないので、HashcashはChaumの匿名型電子通貨「デジキャッシュ」よりも人々が使用するのに簡単だろうと考えていました。ハッシュキャッシュは「二重支出」に対して何らかの保護を提供しているのです。

1998年の後半にWei Dai博士は、匿名の関係者間の契約を締結する手段である “b-money”の提案を発表しました。Wei Daiは計算的パズルを解くことで、中央を持たずとも全体の合意を形成するといった構想を提唱しました。しかしながら、これは具体的な実装に欠いていました。

2000年代

2000年代にはサイファーパンクの「お金」を作ることが検討されました。

2004年、Hal Finneyは「reusable proof of work(RPOW)」で、Wei Daiのb-moneyとAdam BackによるHashcashを組み合わせようとしましたが、ネットワークが信頼できるノードのみから構成されているという前提の下にしか成り立ちませんでした。二重支出の検証と保護は依然として中央サーバーによって行われていたということです。

Nick Szaboは、2005年にRPOWに基いて「ビットゴールド」の提案を発表しました。Szaboはビットゴールドの総量を制限するメカニズムを提案していませんでしたが、1単位を生み出すために実行された計算量に応じて評価する仕組みを採用しました。

2008年、ついにサトシ・ナカモトはハッシュキャッシュとb-moneyの両方を引用して、ビットコインのホワイトペーパーを発表しました。

サトシはホワイトペーパーのなかでプライバシーに関してセクションを設けています。従来の銀行モデルは、関連する当事者と信頼できる第三者への情報へのアクセスを制限することで、一定水準のプライバシーを達成しているが、ビットコインでは公開鍵を匿名で保持することによって、誰かが他の人に金額を送っているが、その取引を誰かに知らせることなく、取引を完了できる、個々の取引は公開されているが、当事者が誰であったかは知らされないと主張しています。

信用される第三者にトランザクションを渡さないという仕組みは個人のプライバシーをむやみに他者に露出しないという哲学に裏付けされているように映ります。実際、ビットコインは「WikiLeaks」などの組織が、伝統的な金融システムから追放された後でも、ビットコインの寄付によって運営を継続できるようにして、サイファーパンクムーブメント全体を強化しました。

有名なサイファーパンク

Jacob Appelbaum: Tor developer
Julian Assange: Founder of WikiLeaks
Dr Adam Back: Inventor of Hashcash, co-founder of Blockstream
Bram Cohen: Creator of BitTorrent
Hal Finney: Main author of PGP 2.0, creator of Reusable Proof of Work
Tim Hudson: Co-author of SSLeay, the precursor to OpenSSL
Paul Kocher: Co-author of SSL 3.0
Moxie Marlinspike: Founder of Open Whisper Systems (developer of Signal)
Steven Schear: Creator of the concept of the “warrant canary”
Bruce Schneier: Well-known security author
Zooko Wilcox-O’Hearn: DigiCash developer, Founder of Zcash
Philip Zimmermann: Creator of PGP 1.0